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2023.10.09

親切と緊急の間で

親切と緊急の間で


親切

憂鬱な気分で歯医者さんに向かう途中、駅でふらふらと今にも倒れそうに街灯の柱によりかかる外国人女性。

傍らには連れの男性。そして、彼らから1メートルほど距離をおき日本人の女性3名が、二人の様子を心配そうに見ていました。

外国人女性の目の焦点は合っておらず、足には力が入らない様子。

「私は看護師ですが、何があったんですか?」傍らの男性に日本語で聞きますがキョトンとした表情。「観光客ですか?」と英語で聞くと「そうです。」と。英語は、通じるようです。男性と二人で女性をゆっくりと座らせます。再び今度は先ほどの質問を英語で聞きますと「朝ご飯を食べずに薬を飲みました。でも大丈夫です。良くなります。」と答え、飲みかけのエナジードリンクを女性に飲ませます。男性に許可を取って女性の脈を測ったところ、特に異常なく、その旨男性に伝えました。

そして、何分前に内服したか聞くと「30分ほど前」と。おそらく空腹時にエナジードリンクで薬を流し込み、エナジードリンクの主成分のカフェインが薬の効き目を増強させてしまったと、推測しました。呼吸数も大丈夫そうです。それから、観光に行くのか聞くと、そうですとの答えでしたので、落ち着くまでここで、お水を飲んで様子を見て、歩けるようになったら宿にもどるなり、観光に行くように説明しました。すると、距離を置いていた3名の日本人女性の一人が「ノーノー」と言ってエナジードリンクを指さし

「どうみても、普通じゃないので救急車を呼びました!」と言い、そばの2名がうなずいていました。

その救急要請必要ですか?

「しまった!」と思いましたが、後の祭りです。

救急車は要請を受けた以上、現場に駆け付け、搬送先の病院を探し、病人またはけが人を搬送しなければいけないのです。

現場の最寄りの消防署や近隣の消防署の救急隊が、駆け付けます。

私は、男性との会話で状況を聞き取り、緊急性はないと判断しましたが、それは長年の経験と医療者の端くれとしての知識があったからです。

かたわらで、心配そうに見守っていた彼女たちに、緊急性の判断を求めるのは無理です。

彼女たちにも情報を共有し、緊急性はないし、観光客なのでもしかしたら、海外旅行保険に入っていないかもしれないので、加入していなければ救急車の費用、病院での診断・治療費も自費になること。

救急搬送先の病院を見つけるのも至難の業であると説明するべきであったと、自責の念に駆られましたが「後の祭り」です。

彼女たちは、親切心で異国で具合の悪くなった旅行者に救急車を呼んであげたのです。

そうしていると、お巡りさんがいらっしゃいました。上記の状況を報告し、自分は、看護師であるため脈や呼吸を確認しましたが、緊急性はなく、自分の歯科の予約があるためお巡りさんに、このまま引継ぎますと伝えました。「それは、どうもご苦労様です。」と元気なお巡りさんの声を背に、歯科に向かいました。

救急車は、おそらく20分後位には到着するでしょう。

でも、彼女を病院に運んだところで、どんな処置をするのでしょう?服薬自殺を図ったわけではないから、胃の洗浄とかはないし

第一、どこの病院が受けるなかなあなどと考え、さらに憂鬱になりながら(歯科が大の苦手なもので)歯科に向かいました。

心強くありがたい存在

約1時間後歯科受診をすませ、帰宅しようと先ほどの現場を通りかかると、いました。

救急車が。

聞くと搬送先を探している最中とのことでした。おそらく、30分以上搬送先を探しているのでしょう。

私の言葉が足りず、緊急性がないのに周りの人を止められなかったことを、救急車の運転席の方に謝りました。

「いえ、いえ、看護師さんこそお疲れさまでした。」とにこやかに労われましたが・・・。

いま、こうしている間にも一刻を争い、救急車の到着を待っている人がいるかもしれないと思うと、やるせない気持ちになりました。

短期間ではありますが、救急病院で患者さんを受け入れる側であった経験や、施設から入居者さんに同乗し、救急車で病院に向かったり、自宅で倒れた母を救急搬送した経験から、救急車は日々、傷ついた人を最善の方法で搬送し、病院スタッフに引き継ぎ

また次の現場に向かうという激務ぶりを見てきました。

本当に、心強くありがたい存在です。

お隣、中国では医療費の不払い防止のため、救急隊が患者さんに、救急車に乗る前に十分な所持金があるか確認し、お金がない人は乗せてもらえないと聞いたことがあります。

実は昨年末、江東区の駅でご高齢の奥様が、歩行中に突然倒れた場面に遭遇しました。

明らかに緊急性がありました。人垣の中から二人の若者が一緒に救急車を呼ぶと手を挙げてくれました。

3人で何十回も119番しましたが、10分以上かけ続けても誰の電話も119番には、つながりませんでした。

人垣を見たビルの警備員さんが、駆け付けてくださり、事情を話すとビル内にクリニックがあるのですぐに診てもらえないか問い合わせてくれるとのことでした。連絡が取れ、クリニックで受け入れてくださるとのことで、警備員さんたちが車椅子で、女性をクリックに搬送してくださり事なきを得ました。

本当に必要とする人のために、救急車は緊急時以外は、要請を控えるべきです。

あの心強くありがたい存在が、呼べば来て当然と思っていらっしゃる方は、いませんか?

当たり前が、そうでなくなると大変です。

救急要請は、慎重に行いましょう。